SocialFi背景

SocialFi(ソーシャルファイナンス)は、Web3技術とソーシャルメディアの融合により誕生した新しい概念です。SocialFiの起源は、従来の中心化ソーシャルメディアが直面する課題、特にプライバシー、コンテンツ所有権、収益分配の不均衡などを解決するための取り組みに遡ります。

この新しいパラダイムは、ユーザーが自らのデータとコンテンツの完全な所有権を持ち、分散型の方法でソーシャル活動を通じて収益を得ることを可能にしています。

SocialFiは、DeFi(分散型金融)やWeb3の概念と密接に関連しています。DeFiは、金融サービスを分散化し、従来の銀行や仲介者を排除することを目指していますが、SocialFiは、ソーシャルメディアの分野で同様の分散化を促進しています。両者は、ブロックチェーン技術やスマートコントラクトの利用を通じて、ユーザーに公平かつ透明なエコシステムを提供する点で共通しています。

また、Web3技術は、ユーザーが自分のデータを管理し、Webサービスの所有権を取り戻すことを可能にするため、SocialFiの重要な技術的基盤を構成しています。

SocialFi市場現状

SocialFi市場規模および産業チェーンについて

現在のSocialFi市場は急速に成長しており、特に2022年以降、Web3やNFTの台頭とともに注目を集めています。市場の成長率は、DappRadarやTokenInsightなどのレポートによると、年間20%以上の成長を示しており、新規参入者や既存のプロジェクトが次々と登場しています。

市場調査によると、2030年までに、世界中のSocialFi市場は年平均成長率(CAGR)形式で成長し続けると予測されています。この成長は主に技術の進歩、ソーシャルメディアプラットフォームの分散化、そして金融サービスの統合によって推進されると言われており、2030年までに市場規模は数10億ドルに達すると予想されています。

データ出典:SocialFi Market Report 2024 (Global Edition)を引用

また、SocialFi Market Report 2024によると、SocialFiの種類を分散型ソーシャルネットワーク、ソーシャルメディアのトークン化、コンテンツ作成プラットフォームに分けた場合、31年までに下の図で示したトレンドになると予測しています。

データ出典:SocialFi Market Report 2024 (Global Edition)を引用

但し、統計で記述されているデータは、分類方法に多く左右されており、上記レポートで示したSocialFiジャンルの分類方法が妥当か否かについては議論の余地があります。

従って、本レポートでは従来Web3分析の文脈に沿って、SocialFi全体の産業をアプリケーションレイヤー、プロトコルレイャー、基礎インフラという三階層に分け、特に、アプリケーションレイヤーに焦点を置いてSocialFiにおけるDappの現状について考察していきたいと思います。

例えば、上記のフレームワークによってプロジェクトを分類すると、次のようになります。

①基礎インフラ

  • CrossBell – イーサリアムのソーシャル系サイドチェーン。
  • DeSo – 低コストストレージサービスを提供するL1パブリックチェーン。
  • その他

②ソーシャルプロトコル

  • Farcaster – データの分散化を目指し、ユーザーがコントロールできるプライバシーとデータ所有権を提供します。
  • Lens Protocol – Web3のソーシャルメディアプラットフォームで、コンテンツの分散化とモネタイズをサポートします。
  • その他

③アプリケーション

  • Pulse – トレーダーたちが集まる分散型のハブ、ユーザーアクションにトークンのインセンティブを付与。
  • Friend.tech – ユーザーがインフルエンサーの「シェア」を購入して、直接コミュニケーションを取ることが可能。
  • Phaver – データの集権はユーザー側にあり、創作者にトークンでインセンティブを付与。
  • Warpcaster – Web3バージョンのTwitter。
  • Mirror.xyz – 記事やNFTを中心に展開されているメディア系プラットフォーム。
  • その他

SocialFiアプリケーションの盛衰

市場には多くのSocialFiアプリケーションがリリースされ、提供されているサービスとコンセプトもそれぞれ異なります。ここでは、かつてSocialFi大手として注目されたプロジェクトの現状について考察してみましょう。

①Friend.tech($FRIEND発行済み):

Friend.techは、ユーザーがETHを使ってプラットフォームに参加しているKOL(影響力のある人物)の「シェア」を購入できる仕組みを提供しています。このシェアの価値は、売り出されたシェア数の二乗に比例して上昇します。

ユーザーはシェアを購入すると、KOLと直接交流できる権利を得られ、そのシェアを売却して利益を得ることも可能です。さらに、Friend.techは積極的に参加するユーザーにポイントを分配し、将来的なエアドロップの期待でユーザーを惹きつけています。

しかし、現時点でFriend.techの経済モデルが長続きしないことは明白です。これは、質の高いコンテンツを長期的に提供してユーザーを引き止めて収益化することができず、広告主の露出要求も満たすことができないからです。

データ出典:Defillama

2024年10月までに、Friend.techの収益は大幅に減少し、ほぼゼロになっています。2023年9月14日に200万ドル以上の手数料を生み出していたのが、1年後の10月9日にはわずか1ドルにまで落ち込みました。実際のユースケースがないため、FRIENDトークンの価値も急落しています。これにより、Friend.techの市場における影響力は事実上終焉を迎えたといえます。

②Phaver($SOCIAL発行済み):

Phaverは、Lensを基盤としたソーシャルプラットフォームで、現在Lensエコシステムで最大のアプリケーションでもあります。Phaverの核心理念は、ユーザーが自分のソーシャル資産を真に所有できるようにすることです。

ユーザーは、優れたコンテンツだと思うものにトークンをステーキングでき、ステーキングする人が多ければ多いほど、そのコンテンツが質の高いものであることを示します。クリエイターやステーキングしたユーザーは、それに応じた報酬を得ることができます。また、ユーザーはタスクを完了することでオンチェーンでの信用を積み上げ、ポイントを増やすことができます。

しかし、無意味なボットの大量流入を防ぐために、Phaverは独自のランクシステムを導入しました。これにより、ユーザーはメール認証を完了したり、NFTを購入したり、ガバナンストークンをステーキングすることで、ポイントをガバナンストークンに交換する資格を得ることができます。

この仕組みによって、Phaverは質の高いコンテンツの発信と発見の双方を促進し、効果的な価値発見を実現しています。

Phaverはリリースから2年で、120,000以上のウォレット接続を蓄積し、3〜4万人のDAUユーザーを実現したと言われているものの、$Phavercoinトークンの価格はうまく上昇しておらず、発行時から既に85.18%下落しています。

データ出典:CoinMarketCap

現在、Phaverに関するユーザーデータを確認する方法がありませんが、Web3業界ではトークンの価格がある程度プロジェクトの影響力を反映しているとも言えるでしょう。

③Warpcaster($Degen発行済み):

FarcasterおよびそのアプリWarpcastは、初期段階で大きな注目を集めました。2024年5月には1.5億ドル以上の資金を調達し、最初のFOMO(取り残される恐怖感)によってDAUも急増し、このプラットフォームは成功に向かうかに見えました。

しかし、2月初旬にはDAUが15,000人を超えるピークを迎えたものの、現在では新規ユーザーが500人未満にまで減少しています(@filarm Dune Dashboardより)。

基盤のアップデートが進み、非中央集権化の潜在力を持ちながらも、ユーザー基盤を拡大できなかったことは、SocialFiが抱えるより広範な問題を浮き彫りにしています。それは、最初の話題性の後にユーザーの関心を持続させることが難しいという点です。

Farcasterの新規登録者数は、2月の15,000人超から9月には545人に急減しており、$Degen価格も初期より大幅に下落しました。

データ出典:Defillama

課題及び原因分析

SocialFiは、当初、分散型金融(DeFi)とソーシャルメディアを組み合わせたことで話題を集め、ユーザーがコンテンツをマネタイズし、自分のデータを管理できる点が注目されました。しかし、SocialFi業界のライフサイクルが短く、ずっとユーザーのロイヤリティを向上させることに苦労しています。

例えば、Friend.techのようなプラットフォームは、SocialFiが初期のFOMO(Fear Of Missing Out)に大きく依存している問題を浮き彫りにしました。これらのプラットフォームは、継続的なアップデートや新鮮なコンテンツ、あるいは独自のユーザー体験を提供できなかったため、ユーザーが急速に減少することになりました。

現在、SocialFi業界が抱えてる課題をまとめると、次の通りです。

  • ユーザーの継続的関与:多くのプラットフォームは、ユーザーが一時的に集まるものの、長期的な関与を保つことが難しい状況に直面しています。これは、コンテンツの新鮮さやエクスペリエンスの革新が不足しているためです。
  • FOMO(Fear Of Missing Out)への過度な依存:初期のブームはFOMOによって支えられたものの、長期的な価値を提供できなかったため、ユーザーの関心が急速に失われました。持続可能なエコシステムを築くためには、FOMOを超えた真の価値を提供する必要があります。
  • 革新的なユーザー体験の欠如:従来のソーシャルメディアのブロックチェーン版を単に模倣するだけでは、ユーザーを引きつけ続けることができません。斬新で差別化された体験を提供することが求められています。
  • 投機に依存するエコシステム:多くのプラットフォームがトークン投機に依存しているため、持続可能なビジネスモデルやユーザーへの実質的な価値が提供されていないことが問題です。
  • Web2とWeb3の統合不足:Web2とWeb3のプラットフォーム間での協力が不十分であり、広範なユーザー層に対して一貫した価値を提供できていないことが、SocialFiの成長を妨げる要因となっています。

これらの課題を克服するためには、単なる投機的要素に依存せず、長期的な価値を持つプラットフォームの開発と、ユーザー体験の革新が重要です。また、Web2との連携を強化し、広範なエコシステムを構築することも必要とされています。

Pulse分散型ハブのソリューション及びその可能性について

Pulse(パルス)とは

Pulseは、Ethereumのレイヤー2ネットワークで構築された、暗号資産(仮想通貨)トレーダーや愛好者向けの分散型ソーシャルトレーディングプラットフォームであり、ユーザーが自分のコンテンツを完全に所有し、トレードに関する洞察を共有したり実行できる場所です。また、トップトレーダーが参加して価値ある情報を提供し、その見返りとして報酬を得る仕組みです。

技術フレームワーク

Pulseのホワイトペーパーによると、Ethereumレイヤー2ネットワークで構築する際に「Polygon CDK Validium」という技術を採用していますが、

①Polygon CDK Validiumの選択理由:

  • Validiumは、Ethereumのスケーリングソリューションであり、ZK-rollups(ゼロ知識ロールアップ)のように、トランザクションの整合性を有効性証明(validity proofs)を用いて確認します。ただし、トランザクションデータ自体はEthereumのメインネットに保存されません。
  • ゼロ知識証明(zero-knowledge proofs)を使うValidiumであるため、信頼性が高く、取引データのハッシュ(要約)だけがEthereumメインネットに保存され、これによってガス代(手数料)が削減されます。データ自体はオフチェーンに保存されるため、コストが低くなるという利点があります。

②Attestation(証明):

  • ユーザーに関連するデータは正確で一貫性があることを検証する必要があります。
  • そのため、ユーザー関連のデータの変更は、Validatorノードによって処理され、その情報と検証結果はブロックチェーン上に分散的に保存されます。

簡単に言うと、「Polygon CDK Validium」を使うことで、取引の安全性を保ちながらコストを抑えたレイヤー2ソリューションを提供し、ユーザーのデータが正確であることをブロックチェーン上で分散的に証明する仕組みです。

インセンティブ・メカニズム

Pulseは、デイリータスクのクリア、友達招待システム、質の高いコンテンツの投稿、コミュニティに貢献するなどのことで報酬を得られるインセンティブシステムを提供しています。

①Pulse Soul Pass(PSP)

インセンティブを獲得するには、まずPulse Soul Passをミントする必要があります。PSPは、ユーザーの分散型デジタルIDとして機能するERC-721トークンで、Ethereum L2のOptimismネットワーク上に展開されています。

PSPは一度ミントされると譲渡できません。初期ユーザー向けのOG PSPと、一般ユーザー向けの通常版PSPの2種類があり、どちらも無料でミントできます(ネットワーク手数料はユーザー負担)。

PSPホルダーには、次のような特典があります:

  • 分散型ソーシャルプロフィールの管理
  • $PULSEの獲得
  • ほかのユーザーへのチップ機能のご利用
  • 将来のエアドロップへの参加資格

②Castとチップ機能

Pulseでは、ユーザーが投稿するコンテンツを「Cast」と呼び、他のユーザーから「いいね」や「返信」、そして「チップ」を受け取ることができます。特に評価の高いCastは、他ユーザーからのチップを通じて$PULSEを報酬としてもらえます。 

さらに、チップを送る側も、チップを送ったCastが後日高い評価を得た場合、その一部が$PULSEとして還元されます。これにより、ユーザー間で質の高いコンテンツが活発に共有され、報酬の循環を促進します。

③コミュニティ管理と報酬

Pulseでは、グループを作成して管理することができます。特に100人以上のメンバーがいるグループでは、モデレーターとしてコミュニティの運営に貢献すると$PULSEの報酬が支給されます。 

また、グループオーナーは、$PULSEをステーキングすることでバリデーターとして活動でき、自分のグループの活動に応じてさらに報酬を得ることが可能です。

トークンノミクス 

Pulseのトークンノミクスは、$PULSEを基盤としたシンプルで効率的なデザインが特徴です。$PULSEは、システムにおけるメイン通貨として、報酬、取引、ガバナンスなど様々な面で利用されます。

①$PULSEの使い道

  • コンテンツ報酬:質の高いコンテンツにチップを送り、投稿者が報酬として$PULSEを得られます
  • ガバナンス:$PULSEホルダーは、コミュニティーの意思決定に参加する権利を持つことができます
  • ガス代:ネットワーク上の取引手数料やガス代を$PULSEで支払う

②トークン供給と割り当て

$PULSEの総発行量は210億枚であり、以下のように割り当てられています:

  • アロケーション1:
    • コミュニティ(30%):エアドロップにより3回に分けて配布
    • グローバルパートナー(10%):6ヶ月で線形ロック解除
    • キーグループオーナー(5%):6ヶ月で線形ロック解除
    • バリデータ報酬(20%):ステーキングAPRに基づきロック解除(10-20%)
  • アロケーション2 :
    • リクイドプール+マイニング(15%):TGEの時に即時ロック解除
  • アロケーション3 :
    • チーム+投資家+エコシステム(20%):チームと投資家向けに1年で線形ロック解除

Pulseユーザー急増と原因分析

新興勢力として注目を集めているPulse(パルス)も、前述した主流SocialFi同様に、初期段階はエアドロップに対する期待値とFOMO効果を使って急速に新規ユーザーを獲得していました。現在、Pulseに新規登録したユーザー数は285,422人に達しており、今も継続的に増加している傾向を見せています。

データ出典:Dune

Pulse(パルス)が新規ユーザーを惹きつける戦略は、GroupFi(グループファイ)というコンセプトですが、Web3インフルエンサーの影響力と、そのコミュニティと深く提携することによって、ユーザー獲得を進めていることが特徴です。

有名なインフルエンサーと提携してプラットフォームの影響力を拡大する戦略は、Friend.techとWarpcastなどと似通っていますが、Pulseの異なる点は、特定のユーザーアクションのみに対してインセンティブを付与するのではなく、多種多様なユーザーインタクラクションに対して豊富な報酬を与えているところが特徴的です。

データ出典:Dune

初期において、新規ユーザーは$Pulseトークンを稼ぐための投機的な目的で大量に投稿したり、ユーザーを招待が行われましたが、これは新規ソーシャルプラットフォームが必ず直面する問題とも言えるでしょう。

ただし、Pulse(パルス)は持続的に最新機能と仕組みをアップグレードすることを通して、徐々にインセンティブの重みをコンテンツ生成に移行させるようになりました。

データ出典:Dune

上記「Daily Cast Reactions」は、ユーザーが毎日キャストという機能を通してコンテンツを生成する統計データですが、明らかにユーザー行為はエアドロップに対する短期的期待値より、コンテンツ生成へ移行していることが分かります。

そして、Pulse(パルス)が実現した重要な点は、Web2とWeb3の統合だと思います。従来、ウォレットベースのSocialFiプロジェクトとは異なり、新規ユーザーはPulse(パルス)でウォレットを意識する必要がありません。

ユーザーは、メール、テレグラムなど、web2ユーザーお馴染みの方式で新規登録を行うことが可能であり、Pulseネイティブトークンである$Pulseの位置づけは、ポイント制度に似通っています。これより、web2ユーザーもお馴染みの環境でソーシャルを楽しむことができるようになりました。

Web2とWeb3の統合は、今までのSocialFiプロジェクトには実現できなかった課題であり、この問題に取り組んだ最初のWeb3系SNSは、おそらくPulseが初めてだと思います。

Pulseソリューションの将来性と課題

Pulseは、Ethereumのレイヤー2ソリューションであるPolygon CDK Validiumを採用しており、これによりトランザクションの高速処理とガス代の低減を実現しています。

特にZK-rollupsを応用したValidiumは、トランザクションの整合性を保ちながらもコストを抑えることができ、Web3ユーザーにとって非常に魅力的です。これにより、今後さらに多くのユーザーがPulseを利用し、プラットフォームの成長が期待されます。

更に、デイリータスク、コンテンツの投稿、コミュニティへの貢献といった様々な活動に対して報酬が得られるシステムを提供しているため、ユーザーを積極的に巻き込むインセンティブシステムは、ユーザーの継続的な関与を促し、プラットフォーム内での活動が活発になる要因となります。

特に、Pulse Soul Pass(PSP)やCast機能など、参加者に独自の報酬を提供する仕組みは、ユーザーエンゲージメントを強化する上で非常に有効です。特に、Web2ユーザーがWeb3の技術に触れる際の障壁を下げていることが、Pulseの成長に寄与すると予測されます。

Pulseの今後の課題の一つは、KOL(Key Opinion Leader)の育成だと思われます。Pulseのプラットフォームでは、インフルエンサーやコミュニティリーダーが重要な役割を果たすため、KOLの存在がユーザー獲得や影響力の拡大に大きく寄与します。

しかし、単にフォロワーが多いだけではなく、質の高い情報を提供し、コミュニティに貢献できる「Pulse系KOL」の育成が必要かもしれません。Pulseは、KOLに対して適切な報酬や評価を与えつつ、彼らの役割を強化する仕組みを整えることが今後の成長に不可欠です。

将来、Pulseは技術的な進歩と共に、インセンティブシステムやWeb2との統合を強化し、暗号資産市場のトレーダーや愛好者を引き込みながら成長していくでしょう。一方で、KOLの育成をどう進めるかが、コミュニティの質と持続可能な成長に影響を与える重要な要素となるため、そこに焦点を当てた戦略が求められます。